挨拶が始まると同時に会場の照明が消えてしまった。何かのトラブルだったのだろうか。司会者からは「復旧するまで少しお待ちください」と言われたが、プログラムの進行を考えたらそうもいかないのではと気を回し、自分の経験の中でも珍しい暗闇の中での挨拶を始めることとなった。
この日参加したのは日弁連主催の「改正貸金業法10周年〜多重債務対策の成果と今後の課題」と題したシンポジウム。多重債務問題を解決すべく、出資法と利息制限法との間に生じるいわゆる「グレーゾーン金利」を撤廃することを目指して、サラ金被害者団体や法律家団体が声をあげ、様々な抵抗をはねのけて国会議員を動かした。2006年に改正貸金業法が成立したことにより、ついにグレーゾーン金利は撤廃され、年収の3分の1までしか借り入れることできない仕組みである「総量規制」も制定された。
このことにより、3件、5件、10件と、いくつものサラ金業者からお金を借りる多重債務者は減少し、借金を苦にした自殺者も大幅に少なくなった。当時、グレーゾーン金利撤廃に抵抗していた勢力が必死に唱えていた「総量規制をするとヤミ金被害が増えることになる」との主張はこの間の警察庁が発表している摘発件数の推移を見ても杞憂に終わったことは確かだ。
しかし、依然として新規借り入れ者数が減っていない。それは長引く不況の中で苦しむ零細業者がなくならないことに加え、非正規雇用の拡大による低所得者層の増大、あるいは病気や失業のためにやむを得ず、いずれかの金融機関から生活費を工面しなくてはならないという格差と貧困という社会的背景があるからではないか。
また、サラ金の貸出残高は減少しているものの、総量規制の対象とならない銀行系カードローンのそれは年々増加傾向にある。銀行系カードローンの信用保証はサラ金業者が務めており、その借り手を増やすことで、総量規制逃れを許してしまうことは、改正貸金業法の趣旨を没却させることに他ならない。
多重債務者の自殺者数は減少したとは言え年間600人を超えており、これを根絶していくことこそこの問題に取り組んできた人々の目標でなくてはならないと思う。
法改正から10年が経過したいま、その前向きな成果を確信にしつつ、新たにうまれている問題点に厳しい目を向けながら、取り組みをいっそう進めることが大切だ。
そうしてこそ、生きていることさえ辛いほど絶望の淵に立たされながら潜在化されてしまっている深刻な多重債務者の心の闇に社会的救済の光を灯すことができるだろう。
そういう思いで挨拶をし終えると、途端に会場の照明が点灯した。あまりのタイミングのよさに会場が沸いたのだが、もしも照明担当者がいたとして気を利かせてくれたなら憎い演出だった。